Dysbiotica (ファミリー)

これまで環境問題や経済システムの矛盾などから発想を得て作品を制作してきた米谷健+ジュリア。 そのモチベーションは「不安」にあると語り、カタストロフな作品は得意分野と冷静に分析する彼らは、今回「微生物」 に目を向けました。 農業をきっかけに、地中に潜む微生物に興味を持った健+ジュリアは、体内や海中などあらゆる場所に存在する微生物が 生き物と共生しながら世界の均衡を保っているという共通点に気づいていきます。

白化した珊瑚をびっしりと纏ったかのような男性像や妊婦、鹿の頭部などで構成される新作《Dysbiotica》は、今年1月 から3月にかけて、滋賀県立陶芸の森でのアーティスト・イン・レジデンスにて制作されました。 《Dysbiotica》とは、腸内細菌叢のバランスの崩壊を意味する語「Dysbiosis」からの造語です。彼らの数年間にわたる 無農薬農業の経験をきっかけに、オーストラリアにあるクイーンズランド工科大学微生物研究所との共同作業を通じて得 た着想が基となっています。

〈絶妙なバランスで構築された微生物群によるミクロ世界の崩壊がマクロ世界へと連鎖していくこと、そして、人と動物 と微生物の織り成す共生の世界の崩壊〉

そんなテーマを持つ本作は、世界的な規模で拡大する珊瑚の白化現象(珊瑚の死滅)を題材とし、磁器土を使用した白く 硬質な表面に、終焉の気配や空虚な印象を感じさせます。その一方で、妊婦や鹿など生命力溢れる存在をベースとしたの は、未来への微かな希望とも言えるかもしれません。

奇しくも、新型コロナウィルスが引き起こした世界的なパンデミックもまた、見えない微生物が引き金となりました。こ の新たな共生を受け入れて進んで行くのか、私たちは先の見えない時代の岐路に立たされています。 しかし「不安」があるからこそ、人間の賢明さはより進化していくのではないでしょうか。