大蜘蛛伝説

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「大蜘蛛伝説」(2018)

ウランガラス、ワイヤー、ブラックライト

3.6m x 3.8m x 2.3m

岡山と鳥取の県境にある人形峠は、1950年代に天然ウランの採掘が行われた地である。そこに、古くから伝えられてきた伝承に、「巨大蜘蛛」にまつわるものがあるという。峠にはかつて、旅人を食らう巨大な蜘蛛がいたが、藁人形を囮に使って退治したことから、そこを「人形峠」と呼ぶようになったというものである(ウィキペディアより)。本作の関連作品に、巨大蟻をモチーフにした立体作品《生きものの記録》(我々の前作品)があるが、ここで着目したいのは、「巨大蟻」と「巨大蜘蛛」という極めて類似性の高い伝承が、いずれもオーストラリアと日本のウラン鉱床付近に存在するという事実である。オーストラリアの先住民の間に伝わる「ソングライン(歌の道のり)」という歴史認識においては、祖先、祖先の神々、ドリーミング(伝承)などのルーツは、日本方面(正確にはアイヌ)にあると信じられているという。この大蜘蛛伝説は、縄文以前に本州各地に居住していたとされるアイヌの伝承のひとつであった可能性があるともいわれる。ドリーミングは、倫理、知識、我々の社会でいう「法律」のようなものと認識されているが、日本の古い伝承なども同等の役割があったとされる。ちなみに、アフリカやカリブ地域にも「アナンシ」と呼ばれる蜘蛛に関する神話があり、叡智のメタファーと認識されている。巨大な蟻や蜘蛛が人を襲い、世界を破壊するという伝承は、危険性を孕んだ「ウラン」に近づく者への警告か、あるいは先住民族の予言であったのだろうか。